1. HOME
  2. コラム
  3. 店舗ビジネス全般
  4. 製パン店のビジネスモデル

コラム

Articles

製パン店のビジネスモデル

ベルべの倒産に思うこと

昨年11月に2回目の不渡り、行き詰まりが表面化した手作りパンのベルべ。11月8日に全店舗閉鎖&事業を停止、社長と連絡が取れなくなるなど混乱をきたしながら、2022年2月8日までに自己破産を申請しました。
帝国データバンクの倒産速報記事はこちら

リーズナブルな価格で人気を博し、地元神奈川県内ほか、汐留や大手町、霞が関などオフィス街にも店舗網を拡大。2020年6月期には売上高25億6000万円をあげていたものの、新型コロナウイルス感染拡大での集客低下で給与の遅配も発生するなど資金繰りがひっ迫、多くのファンに愛された製パン店は終焉のときを迎えました。負債は債権者約700名に対し約59億円。ベーカリーチェーンの倒産としては過去最大となるとのことです。

昨今、高級食パンブームに乗ってパン店専門店プロデューサーや食パン店のフランチャイズなど、新規参入型の製パン店の事業提案を目にする機会が増えています。

ところで製パン店は元来、労働集約型のビジネスモデルであります。特に店内でパンを焼成するモデルは、想像以上にパンの仕込み~製造に対する工数負荷が大きいのです。

食パンを例に取ると、その製造工程は以下の通りです。ざっと3時間。


製パン店の商品は食パンだけではありません。多品目な商品を揃えるお店であればあるほど製造を同時進行で進めるため、10時開店ならば朝5時6時には作業に取り掛からないととても間に合いません。
そこでチェーン展開するパン店の多くは①~④の工程を冷凍生地の供給によりショートカットすることで現場負担軽減を提案されることが多いのです。

ベルべは「手作りパン」を冠していただけに店内調理にこだわっていました。①~④の工程をどこまで現場に背負わせていたかは分かりませんが、薄利多売かつ労働集約のビジネスモデルが原材料価格の高騰・コンビニの台頭などで地域密着のパン店が倒産する例は枚挙にいとまがありません。

2019年には大阪・兵庫エリアを中心に約18店舗展開の手作りパン店「コペンハーゲスト」が約5億3100万円、また東京を中心に複数店舗を構える老舗ベーカリー「イッツピーターパン」が約2億円の負債を抱えて倒産。

フランチャイズモデルが提唱するように「夫婦の食い扶持を人件費に算入」して、パンを愛する方に長らく持続を目指すのが、小規模製パン店のもつ打点の限界なのかもしれません。

街のパン屋さんの「幸せな店じまい」

昨年より、パン屋さんのご閉店のお手伝いをさせていただく機会が増えています。

50年以上にわたってご夫婦で運営されてきたお店を閉じることになったと、娘さんからご相談がありお伺いしましたが、そこで目にしたのは本当に長年大切にされてきたパン屋さんの什器たち。

作り付けの巨大なオーブンは幅1.8m、奥行2m、高さは軽く2.5m超え、昭和63年製の電気パン窯。製造元はすでに倒産されていて、間口からの搬出は不可能&解体必須。予想重量400Kgを軽く超える重量です。
まだあります。冷凍庫250Kgにミキサー300Kg、リバースシートやモルダー、ホイロに丸目分割機など「色々重すぎる」。

これらを老齢ご夫婦で運び出すことは不可能ですし、業者さんに頼むと解体・処分・撤去で高額な費用がかかってしまいます。

お願いされたのは「全て処分してリフォームしたい」

そこで30年以上前の機械を中心にメンテナンスしては少しずつ売却先を探し処分を進め、予想されていた退店費用を大幅に圧縮することができました。

皆様ご協力ありがとうございました

無事、ご閉店を並走してお役に立つことができたと自負していますが、

それよりも何よりも
50年間、街の暮らしを支え続け、長らく愛されたパン屋さん。
娘さんが小学生だった頃、本当に自慢のお店だったであろうパン屋さん。

開店当時賑やかだった商店街に残った、最後のお店。
閉店間際には品切れまで行列が絶えなかったそうです。

荒波の中、店を守り続けたお父さんとお母さんが引退されるとき、傍で娘さんに見守られながら「幸せな店じまい」ができたことは、今この淘汰の時代にあって、本当に良い結末であったのではないかと、私たちは思うのであります。

関連記事