街で長年愛されたお店の終わり
2021年初夏、店舗業の経営環境
こんにちは、日本初の「店じまい」専門家、ショップデザイン腰原です。
どの業種にあっても影響は大きいですが、新型コロナウイルスによる休業要請や営業自粛、
これが店舗業にとって大きな打撃になっています。
昨今、あまり明るい話題がありませんね。
今回はじめての寄稿でもあり、私たちの「店舗業を取り巻く経営環境」について少々。
そもそも高度成長期から増加し続けてきた店舗業は少子高齢化(人口減少)と消費飽和に加え、人件費や原材料費の高騰など厳しさを増し「淘汰の時代」に。経営者は顧客ニーズの多様化やインターネット販路の活況において、いかに残存商圏に見合った個店価値を差別化し伝えていくのか、シビアな舵取りを迫られていらっしゃいます。
さらに、店舗業経営者の高齢化が進んでいるという側面もあります。
令和元年度の中小企業庁のデータから調べてみました。
「小売業+宿泊業・飲食サービス業」従業員数5名以下の法人および個人企業における経営者の年齢層ですが、実に全経営者のうち60歳以上の占める割合は約68%となっています。
(小売業69.52%、飲食業65.82%=これは飲食業のほうがより体力勝負だからでしょう)
2020年に休廃業した企業の代表者の年齢は70歳代が約4割。60歳代も含めると8割にのぼります。
高齢化と相まって後継者不足も深刻。帝国データバンクの実態調査でも飲食店が含まれるサービス業の後継者不在率は71.3%。黒字経営または改善可能性が高い事業にも関わらず健康上の問題などを理由に廃業に向かうケースも多いとのこと。
2020年、全国で「休廃業・解散」した企業は4万9698件と前年比14.6%増。主な理由はまさに後継者不在によるものでもあり、日本の店舗業における社会的損失側面からも看過できない大きな問題になっています。
そこへ今回のコロナ禍です。
新型コロナウィルス関連において、負債1,000万円以上で破綻した業態は飲食業が最多の276件、その後は建設業145件、アパレル製造・販売業の131件、ホテル・旅館業81件と続いており、店舗型の業態が上位に並んでいます(帝国データバンク2020年4月21日調べより)。
持続化給付金、新型コロナ特別貸付、新型コロナ特例リスケなど、政府・自治体・金融機関は目の前の倒産を防ぐための支援策を打ってきています。しかし効果は限定的であり、長く続くコロナ禍により経済状況が悪化していくいま、特に高齢経営者から後継者に事業を引き継ぐ機会は失われていくのではないでしょうか。
ただこんな環境ではありますが「お店の終活」の現場は、実はそんなにしんみりした空気でもなかったりします。
あなたの物語をお聞かせください
お店を経営してこられた店舗オーナー様からのご相談があったとき、私がはじめにお聞きするのはいつも、街で長年愛されてきた大事なお店のこれから、についてです。
日本初の「店じまい」専門家として、ハッピーエンドを一緒に考える。
お店じまいのご相談は年々増えていますが、大事にしたいことはずっと変わりません。
特に70歳以上の経営者様からお問合せをいただくことが多くなってきている昨今。
長らく、わが子同然に育まれてきたお店を「閉めよう」と決められた理由はそれぞれですが、
コロナは理由ではなく、「長らく感じていたことをゆっくり考える時間ができたから」と仰る方が多いのが印象的です。
「これまでも経済的な苦境に立たされてきたことは何度もあったよ。
いやね、身体もキツいから何度もやめようと思ってたけど、うちが無くなっちゃうと困るお客さんもいてさあ。でも今年、東京に2度目のオリンピックも来るでしょ?こんなだから本当にやるか分からないけど。そろそろいいかな、って。孫と遊びたいし女房と旅行にも行きたいしね。」
そう。雨の日も風の日も店頭に立ち、地域経済の振興を担ってきた経営者の皆さんです。ちょっとやそっとのことで挫ける方々ではありません。そんな皆さんの紡いでこられた、街で長年愛されたお店の終わりには「前向きな理由」があることが多いのです。
始めるよりも終わる時のほうがエネルギーを使うからこそ、前向きに。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも」色々経験してこられたからこそ、お店の終わりは自分で決める。
やめるのは寂しいけど、店を閉めたら次はこんなことをしたいなあ。
さすがニッポンの高度成長期を支えてきた方々、話すと本当に元気をもらえます。
そんなお話をお聞きするのが、私は大好きです。
この街で長年愛された、あなたのお店の物語。そして日本が夢と希望に溢れていた頃の東京オリンピックの話を聞かせて下さい。
経営環境はこれからも刻一刻と変わっていきますが、きっとそのバトンを受け、日本の店舗業の火は消えることなく聖火のごとくつながっていくだろうと信じています。